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最高裁判所第一小法廷 昭和40年(あ)1889号 判決 1966年2月17日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人花岡隆治、同斉藤兼也、同田宮甫、同向山義人、同鈴木光春、同鈴木孟秋の上告趣意第一点中違憲をいう点については、公務員が法令上管掌する職務自体ではなくとも、その職務に密接な関係を有する行為につき収賄した場合には、刑法所定の収賄罪が成立すると解すべきところ(昭和三〇年(あ)第四一〇七号同三一年七月一二日最高裁判所第一小法廷決定刑集一〇巻七号一〇五八頁参照)、五〇〇〇坪をこえる農地を農地以外の用途に転用するため所有権移転の許可申請書を都道府県知事を経由して農林大臣に提出する場合には、市町村農業委員会がその手続に関与することは法令上特別の規定はないけれど、原審の確定する事実によれば、神奈川県においては、右知事のする手続に至るまでに申請書はまず所轄市町村農業委員会に提出され、農業委員会はその内容を検討したうえ意見書を付してこれを知事に送付することが従来慣例として行われており、この農業委員会における手続は、農地法関係事務処理要領(既墾地の部)その一(昭和二七年一一月二五日付農林省農地局長通達二七地局第三七〇七号)及びその廃止後の農地等転用関係事務処理要領(昭和三四年一一月一三日付農林省農地局長通達三四地局第五五〇七号)のうちに前記知事のする手続に当って「知事は必要があれば市町村農業委員会の意見をきくものとする」旨示達されていることに基づき、同県の行政指導により慣例として行なわれていたというのであり、また農業委員会等に関する法律六条三項によれば農業委員会は他の行政庁に建議し又はその諮問に応じて答申することができる旨規定されているのであるから、神奈川県における右慣行は前記申請について包括的な知事の諮問があって個々の案件毎にそれに対する農業委員会の答申が行われているものと解し得ないでもない旨の原審の認定判断は首肯し得ないことはない。従って、右通達が法令上の根拠を持たず、従って右農業委員会における手続が従前からの慣例による事実上のものであったとしても、農業委員会が現にその手続を行っている以上、農業委員会の委員がその手続における審議及び決定に加わることは、同委員会の委員の職務に密接な関係を有する行為としてその職務に該当するとした原審の判断は正当である。論旨は、前記農業委員会の手続は同委員会及び同委員の職務に当らないことを理由として違憲の主張をするものであるから、右委員の行為が職務に該当する以上、前提を欠くものであり、その余は単なる法令違反、事実誤認の主張が出ないから適法な上告理由に当らない。

同第二点は違憲をいうが、記録によるも所論供述調書が所論の如き強制誘導により得られたと疑うべき証跡は存しないから、論旨はその前提を欠き、上告適法の理由に当らない。

同第三点は違憲をいうけれども、その採るべからざることは、所論引用の昭和二三年(れ)第一一四〇号同二四年四月六日大法廷判決及び昭和二三年(れ)第一四一号同二五年二月一日大法廷判決(集四巻二号七三頁)の趣旨に照らして明らかであり、今なおこれを変更するの要を見ないから、論旨は理由がない。

同第四点は違憲をいう点もあるが、実質は事実誤認、単なる法令違反の主張であり、その余は量刑不当の主張であっていずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。

よって、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎)

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